フランチャイズチェーン契約こそが、Y堂側と中小小売店の店主が対等な関係で契約を結び、共存共栄を図ることができる仕組みとSらは考えたのだ。 本部(5社)と加盟店はそれぞれ独立した存在であり、強固な信頼関係を築くことを目指した。
Y堂はS社との提携を受け、日本でSを展開するための新会社を設立することになった。 本来なら新規事業はY堂の一事業部として立ち上げても良かったが、スーパーとは経営ノウハウが異なるコンビニの運営であるから、最初から独立した会社で事業を始めることが賢明だと考えた。
Sら個人にしても、失敗が許されない環境に身を置き、退路を断つことが大事だった。 S社もスーパーの経験のある人材よりも、新しいノウハウを吸収するには、流通とは関係のない人材で組織することを希望した。
社名はY堂とSの両方を組み合わせた「Y」(現S)。 本社は当時、千代田区3番町にあったY堂本社ビルの7階の一室(約23平方メートル)を間借りした。
社員数は15人だが、Y堂からの移籍組はS、Sのほかに取締役のIの3人だけ。 Y堂に入社したばかりの商社マンで英語など語学の達人のKも新天地に移った。
まさに素人集団の旗揚げだった。 資本金は1億円でスタートしたが、大半のY堂役員はコンビニ事業に懐疑的で新会社への出資を渋った。
このため、Yの新役員らは銀行から借り入れをするなどして個人で出資した。 失敗したらなけなしの財産も無くなる。
のだった。 Yが誕生して10日後には、早くも米カリフォルニア州サンディアゴにあるS社のトレーニングセンターで研修が始まった。
営業、店舗運営、立地開発、従業員教育などについて分厚いマニュアルが用意され、誰もが「これさえ手に入れば日本でコンビニ経営がやっていける」と思い、真剣に研修を受けた。 Sは1ヵ月遅れた12月中旬から研修チームの第2弾として参加した。

ところが研修3日目にして大きな衝撃を受けた。 「この研修は日本で役立ちそうにない」品ぞろえの講義では冷凍食品など日持ちのする商品ばかりが紹介された。
日本の消費者は鮮度のいい商品を求めている。 主力商品のサンドイッチでも日本人の舌に耐えられる味覚とは到底思えなかった。
社内の反対を押し切ってここまでなんとかやってきたのに、いざ、ノウハウを供与してもらうという最も大事な研修は期待外れだった。 参加しているYのメンバーは皆、まじめに講義や実技演習を受けていた。
Sはそんな姿を見ていると「ここにいても無駄だ」とは言えず、天国から地獄に突き落とされたような感覚になった。

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